6月3日、なでしこジャパンが韓国代表に6対1で圧勝した。
過去の対戦では何度か煮え湯を飲まされてきたが、ここ数年、世界の強豪国との対戦を重ねたことで、韓国に決定的な差をつけていた。
韓国の強みは激しいボールへのプレッシャーとフィジカルの強さだったが、日本は、前線からの連動したプレスでボールを追い込み、相手のボールを奪っては素早くゴール前に運ぶ、まさに相手のお株を奪うサッカーを展開した。この現代サッカーの潮流に沿った正攻法的戦術で韓国相手に次々と得点を奪っていた。日本女子代表の成熟度が改めて証明されたと言える。そんな女子代表の中心にいたのが、重鎮、澤穂希と宮本ともみだった。
澤は言わずと知れた女子サッカー界のスター選手。弱冠16才から日の丸を背負い、日本のエースとして数々の窮地を救ってきた。そして日本だけでは飽きたらず、女子サッカー先進国のアメリカに活躍の場を移し、リーグが消滅するまで第一線で活躍し続けてきた。すでに代表マッチは120試合を超え、女子としてアジア最優秀選手にも選ばれている。
この試合でも澤は期待を裏切らないプレーを随所に見せた。自分と相手の間合いをつかみ、上手くボールを流し自分の懐に入れ込む技術は圧巻で、そこから持ち前の技術とスピードで一気に局面を打開していた。その動きは、高い塀から猫が飛び降りる時のようなしなやかさと身のこなしがあり、ほぼ90分間ノーミスで戦いぬいた。
そして、もう一人の重鎮、宮本ともみだが、この日の彼女は一際輝いて見えた。日本のプレスが見事にはまったという一因もあったが、中盤の底で余裕を持ってボールを受けた彼女は、まさに日本船の舵取りをやっていた。サイドで人がつまり、ボランチの彼女のところにボールが渡ると、スタンドから見ている誰もが「逆サイド」と思う、その瞬間にサイドチャンジを送ることができていた。さらにそのキック力と精度も高く、ゲームの流れが淀むことはなかった。この間髪入れないサイドチェンジが韓国チームを徐々に苦しめていき、結果的にマークのズレが生じ、大量点へつながった。
澤が「柔」とするなら、宮本は「剛」といったところだが、日本男子には「柔」的な選手は数多く存在するが、宮本のような「剛」的な選手というと見当たらない。宮本は168cmでチームいちの長身のため、背丈から言えば、平山相太がピンと背筋を伸ばした感じで、プレーで言うと稲本潤一のようなダイナミックさを持った感じだろうか。
ただ“なでしこ”ジャパンというだけあって、文字通り、可憐さとりりしさを兼備した日本女性の風合いを持っているため、男子にたとえるのは難しい。その理由はやはり彼女がママさん選手であることも関係しているのかもしれない。
日本でママさん選手の代表的な存在と言えば、世界の谷亮子。「田村で金、谷で金、ママで金」と堂々と言いのけるその自己顕示欲は、道を究めた者のみが持つ風格が漂っている。そんな谷と比べると宮本のママっぷりはやはり“なでしこ”なんだと思う。
柔道とサッカーという競技の違いがあるとは言え、谷には勝負師としての殺気が漂う。しかし宮本にはやはり一人の母としての自分がベースにある。
この韓国戦の先制点は宮本の華麗なボレーシュートだったが、その得点後、彼女は満面の笑みでスタンドに手を振った。そこには2歳の息子が座り、家族に手を持たれ、笑顔で手を振り返したそうだ。試合後、その時の様子を喜んで話していた宮本。そんな笑顔が今の日本女子を支えている。
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