亀田大毅がチャンピオン内藤大助に完敗した。
「負けたら切腹する」、「内藤はゴキブリ」と散々悪態をつき、チャンピオンを挑発し続けた。しかし試合では予想外の点差に常軌を逸し、およそボクシングとは思えないプロレス技まで飛び出した。勝者を讃えることなく足早に帰る亀田家に対し、会場内のファンは「切腹」コールでののしった。ボクシングには試合前の挑発や舌戦は日常的とは言え、今回の一連の言動で多くのファンを敵に回し、完全にヒールとしてのイメージを定着させた。
同じプロスポーツとして、サッカーはどうだろう。ことサッカー界に関しては、選手の数も多い分、たくさんのヒール、いわゆる “悪童”が存在する。フランス人でマンチェスター・Uで活躍したカントナや、ブラジル代表のロマーリオ、アルゼンチン代表のマラドーナなどがその代表格だ。
カントナは、テクニック、突破力、イマジネーションとどれも超一流だったが、その素行の悪さも超一流として有名だった。監督批判や選手批判はもちろん、試合中、自分を罵倒したサポーターに向かって跳び蹴りを食らわし(カンフーキックと称される)、4ヶ月の社会奉仕活動と約1年間の出場停止を課せられたこともある。ロマーリオは、94年のアメリカW杯で同僚を批判し代表を辞退するなど、歯に衣着せぬ言動を繰り返し、監督やチームメイトとのトラブルは後を絶たなかった。マラドーナは、かの有名な「神の手」ゴールやドーピング違反、果てはコカイン使用など、いわゆる犯罪行為にまで及んでいる。
現役選手で言うと、やはりイングランド代表のルーニーがナンバーワンだろう。14才までボクサーをやっていただけあり、気性が荒く、負けん気が強い。胸板が厚く、腕力も相当なもの。プレーが荒々しく、ラフプレーでの退場が多い。さらに審判への暴言も多く、レッドカードに怒りを露わにし、放送禁止用語がお茶の間に流れたこともあった。
そして最近印象に残っている選手と言えば、イタリア代表のマテラッツィ。試合中、ボールがないところでの肘打ちは常習的で、後方からの両足タックルも平然とやってのけてしまう。その異名は「つぶし屋」。ドイツW杯でのジダンへの暴言は、もはや説明する必要もないだろう。
この“悪童”と言われるサッカー選手に共通するのが、ナイフのような鋭利さ。安定感のあるプレーからはほど遠く、刹那主義的プレー、すなわちその一瞬に強烈な光を放つプレーを得意とする。ゴール前での爆発的なスピードや、相手を手玉にとって次々抜くドリブル、両足根こそぎ持って行くような鋭利なタックルなど、記憶に焼き付くプレーが多い。
ルーニーは、右足での豪快なカーブシュートでプレミアシップ最年少ゴール記録を塗り替えたし、マラドーナはW杯イングランド戦で五人抜きのドリブルをやりとげた。ロマーリオはアメリカW杯で圧倒的な得点能力を見せつけ、マテラッツィはジダン最後の試合で退場に追い込んだ張本人。それぞれ形はどうあれ、いずれもインパクトは強烈だ。
ただ“悪童”は生きにくい。中途半端な実力しかもたない悪童は、同等レベルのプレーヤーがいれば、回りから敬遠され、淘汰されていく運命にあるからだ。しかしそこを突き抜け唯一無二の実力を持った悪童は、確固たる地位を築き上げ、叩かれても蘇り、いつしか伝説となる。
亀田大毅は今回の試合で、そのヒールぶりを遺憾なく発揮した。しかしサッカーでは、「悪童」とののしられ、各協会から厳しい制裁を受けようと、謹慎期間を経て再び表舞台に登場し、それまでの批難を沈黙させるだけのプレーを見せつけ、ある者は伝説にまで上り詰めている。
亀田大毅に実力が伴っているのならば、再び彼は戻ってくるだろう。もしこれで腐るようなことがあれば、本当のヒールとして、この社会から淘汰される運命にある。
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