ここ近年では最も寒さの厳しい試合だった。気温はわずか2℃。雪が直接あたる場所にいた人の体感温度は、おそらくマイナスになっていただろう。長年代表を見続けているベテラン記者たちも雪の降る中での代表戦は記憶にないとブルッていた。
それにしてもワールドカップ予選初戦だと言うのに、誤算の多い試合だった。
まずはタイに対する情報不足があった。岡田監督は年末にタイで行われたキングスカップを視察している。タイは地の利を生かした面も否めないが、アジアカップ覇者、イラクに二連勝するなど、仕上がり具合の良さを見せていた。岡田監督は数試合を観戦し、その実力をつぶさに分析している。おおよその戦い方を把握し、タイは日本に対して引いて守ってくるという想定をした。
しかしその後は情報が錯綜。韓国合宿で全北現代に快勝したのを知ると、「どうやら前からプレスをかけてくるらしい」と対策の練り直しを行った。
結局、試合前日のミーティングでもタイの出方を絞りきれず、「試合に入ってから対応しようと言われた」と駒野は語っている。
試合はご存知のようにどん引きのタイを攻めあぐねたわけだが、先制直後の失点もまた誤算のひとつだった。あのシーンは明らかに集中力を欠いていた。スタンドから見ていて、その様子が手に取るようにわかった。まずタイがキックオフしても、日本の選手は相手を捕まえようとしなかった。ドリブルしてきた十番に慌て中村が寄せたが、ボールを出され、バイタルエリアで簡単に前を向かれていた。ミドルシュートはラッキーパンチではあったが、それまでのお粗末な守備を見たら自業自得と言わざるを得ない。
「自分自身が甘かった」と岡田監督は語ったが、明らかにこの失点のことを言っていた。この辺の怖さこそが、ワールドカップ予選だと改めて思い知らされていたようだった。
そしてこれはうれしい誤算でもあるのだが、タイの実力が、事前情報よりも格段に劣っていた。岡田監督はこの三次予選で一番の難敵だと語ることもあった。相手を尊重するという意味も、油断させないという意味もあったと思うが、結果的に必要以上の警戒心だった。4対1というスコアは実力から言っても妥当な結果だっただろう。
またタイだが、後半はプレーに雑な面が見られた。献身的に走り、組織的にプレーできるチームのはずだったが、逆転されてからは苛立ちを抑えきれなかったようだ。イエローカードも増え、悪質なファールもあった。試合後、敗者に拍手を贈るような気持ちにはなかなかなれなかった。
オシム前監督が言っていたように、その場の状況に応じて対応しなければならないことは承知の上だが、今回の試合に関しては、事前情報の混乱や、集中力の欠如など、ベースにあたる部分に問題があったように思う。細かいプレーの課題を挙げたらキリがないが、まずは闘う前の周到な準備とメンタルの部分の向上が必須だろう。
余談だが、鈴木啓太がミックスゾーンを素通りしたのもまた、誤算だった。どうしてなの?啓太くん。いつもは最後までいてくれるのに。
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